実例紹介

地域で働く可能性を知るローカル型キャリア・ライフ教育

実証事業者:国立大学法人山口大学、パーソルキャリア株式会社

ポイント!

  • 選択肢が狭いという固定観念を取り除く
  • 働き方の多様化を地域で「働く、暮らす、生きる」につなげる
  • 地域の過疎化、人口流出の対策として全国へ

山口大学は、中山間地域におけるキャリア教育の推進を目的に連携協定を結ぶパーソルキャリアとともに、ローカル型キャリア教育プログラムを開発、山口県美祢市の小学校で実証事業を行った。都市部に比べてキャリアやライフデザインに関する情報が少なくなりがちの地域でも、働き方や暮らし方、生き方において主体的に選択できるよう備えてもらう試みだ。近年、進学や就職で都市部へ出た後に地元に戻るUターンや、移住などのIターンといった多様な選択が、テレワークや起業といった働き方とともに広がる。人口流出の課題を抱える地方で将来の地域を担う人材を育む狙いがある。実証事業に参加した子どもたちの間では、地域の仕事や働き方の多様化に対して理解が進み、地元へ関与し続けたいといった意識が高まったという。

山口大学の実証事業の様子

特産を題材に、「見えていなかった仕事」を知る

実証事業は美祢市の小学校6年生約20人を対象に実施した。パーソルキャリアの提供する“はたらく”を考えるワークショップのうち、働くことや暮らしへの理解を深める「動機づけワーク」と、大人に対して質問を投げかけて主体的に学ぶ「おとなインタビュー」のローカル型モデルの共同開発が柱だ。いずれも子どもたちが自ら考える内容にしており、実証事業の中心的な役割を担う山口大学教育学部の原田拓馬講師は、「早いうちから主体的に、私生活とキャリアの両方を考えてもらうことで、選択肢を広げられる」と狙いを明かす。学習では多様な問いかけにより、地元の特産であるナシやニジマスなどを題材に、関連する仕事を考えさせ、生産者だけでなく、種苗の研究や物流業、小売業まで、一つの商品に世の中のさまざまな仕事がかかわっていることに気づかせる。事業をサポートする同大URA室の義嶋諒也さんは、「選択肢が狭いという先入観から、本意ではないが地元を離れる人もいる。地域への愛着と職業の選択を両立できるようにしていきたい」と、子どもたちに見えていない地域での「働き方」を伝える意義を強調する。

業種だけでなく、働き方の広がりを地域につなぐ

おとなインタビューでは、近年、UターンやIターンの事例を知ってもらうため、東京での勤務経験などを経て美祢市に戻って起業したUターン人材を招き、子どもがインタビューした。業種だけでなく働き方についても広がりを知ることで、地域で暮らし、生きていくことへの魅力や可能性に気づいてもらいたいという。実証事業後、児童から「ふるさととのかかわり方に気づいた」や「リモートワークや地元にたまに戻ることでも貢献できることがわかった」など、地域に関わる意識がより強まったという。原田さんは、「人口減少が進む地域では『地元から出さない』という意思が強くなりがちだが、若い世代からすると進学などで出ざるを得ない現状がある。選択肢があることを知ってもらい、Uターンや関係人口が移住して定住人口につながるような将来を描きたい」と話す。
今回の実証事業では、自治体である美祢市も巻き込んだ。山口大は今後もパーソルキャリアと連携し、美祢市以外の自治体でも横展開し、「中山間地の課題である人口減少の解決につなげていきたい」(原田さん)という。