解説!ライフデザイン
情報の「取捨選択」できる学びの機会を

宮木 由貴子 氏
第一生命経済研究所 常務取締役
株式会社第一生命経済研究所常務取締役、ライフデザイン研究部長、首席研究員。東京都出身。慶応義塾大学総合政策学部卒業後、1994年4月 ライフデザイン研究所 入社(現第一生命経済研究所)。研究分野はウェルビーイング、ライフデザイン、消費者意識、コミュニケーション、モビリティなど。著書に『ウェルビーイングを実現するライフデザイン』(共著、東洋経済新報社)、『「幸せ」視点のライフデザイン』(共著、東洋経済新報社)、『人生100年時代の「幸せ戦略」』 (共著、東洋経済新報社) など。
いま、なぜライフデザインが大切なのでしょうか。
昭和、平成、令和と各時代で、ライフデザインの考え方も変わってきました。昭和は画一的な、定型モデルのようなものがあり、その通りに過ごしていなければならない圧がある一方で、その通りにしていれば老後も暮らせるという安心感がありました。昭和モデルを「ライフデザイン1.0」とすれば、女性の高学歴化が進み正社員も増えて多様化が広がった平成は「2.0」、そして、令和は定型モデルのない自らが描く「3.0」と位置付けられます。
ライフデザインを描くには、短期的視点と長期的な視点の両方が必要です。「1.0」「2.0」時代は、長期的な視点が中心でしたが、「3.0」においては今を楽しく、充実させるという視点も大きな要素となっています。日々の「幸せの体感」をどうデザインするかが大事です。
「幸せの体感」を目指すうえで考慮すべきことはなんでしょうか。
もっとも起きやすいのが、手段が目的化してしまうことでしょう。
たとえば、健康であれば数値や状態が良ければいいとか、お金であれば多く持つことが目的になりがちです。人間関係についても広いネットワークを持つこと自体は目的ではありません。自分にとってなんのための健康・お金・人間関係なのかを考えているかということです。
まずは自分がどうありたいかを描くことが重要です。中長期的には夢や理想でもいいと思います。それに向けて短期的に現実的なアクションを設定し、行動変容を生活に取り入れて定着させていくことが重要です。アクションを持続的なものにするために、最近ではSNSで自身の取り組みを発信したり、アプリを活用して日々の生活を把握したりしている人もいます。
大事なことは、状況に応じてライフデザインを見直すことです。ある程度の柔軟性をもって、自分のライフデザインを見直すことで、日々の充実や楽しさを両立させながら中長期の目標に向かって道やアクションを選んでいく。
「歯を食いしばって目標を達成する」ということばかりではなく、日々の幸せを体感しながら目標に向かうようライフデザインを作っていくことで、描いた未来の実現に向けたアクションを持続的にすることが重要です。
健康やお金、人間関係のどれをとっても幸せのあり方は人それぞれです。
健康は健康診断の結果ではありません。数値が悪かったり、体が自由でなかったりしても、本人が幸せを体感できる状態を作ることで「健康」を実現します。「主観的健康観」と言ってもよいでしょう。
お金についても同様です。お金は「量」だけが幸せの尺度ではありません。お金の稼ぎ方・使い方・貯め方によって、人それぞれのウェルビーイングを実現できます。人間関係も、広いつながりを好まない人もいるなど、量や多様性の高さが必ずしもウェルビーイングをもたらすわけではありません。それぞれが幸せを体感できる姿を選択することが大事です。
どのようにライフデザインを作っていくといいでしょうか。
ウェルビーイングと、「自分で選択できる」ことには相関があると言われています。ライフデザインにおいては、必ずしも将来が見通せていればよいということではなく、自分に未来の選択肢がある状態を作ることが重要です。
そのためにも求められるアクションが情報の取捨選択です。
自分に近い現実的なケースなどを参考にしながら、取捨選択できるリテラシーを持つ。そのためには、常に学びが必要になります。変化の激しい時代なので、新しくて正しい情報がこれまで以上に大切になってきます。特に古い情報を捨てる「捨」は難しいスキルかもしれません。新しい情報は取り入れやすいですが、これまでに取得した自分の情報を入れ替えるのは意外に難しい。
また、これまでライフデザイン教育の中では「お金」の部分が注目されがちでした。教育費や老後資金など、人生における費用負担がクローズアップされてきました。これにより、結婚・出産といったライフステージの変化や消費行動にブレーキがかかった点は否めません。今後、ライフデザイン教育のあり方についても再考が求められます。
ライフデザインは変化し続けるもので、一人ひとりその絵姿は違います。今後は、座学でライフデザインの必要性を学ぶだけでなく、例えばカウンセリングのような形で健康やお金、人間関係についてプロの意見を取り入れながら、自身の道筋を明確にしていく、変化させていくことも大切になってくるでしょう。